■キックバックの利用

図の様に、コイルに電流を流した後、電流を一瞬で遮断するとコイルに高電圧が発生します。
この高電圧はスイッチやコイル自体を破壊する場合もありますが、積極的に利用する事で電圧の変換に利用できます。身近な所では、車のイグニッションコイルがあります。イグニッションコイルでは電流を流す一次コイルと高圧を発生させる巻き数の多い二次コイルを同一のコアに巻いたトランスの様な構造になっています。

一次コイルには、バッテリーからポイント(昔は機械式の接点だったが、現在の車はトランジスタ)と呼ばれる開閉装置を通して電流が供給されます。一方、高圧が発生する二次コイルにはスパークプラグが接続されいます。ポイントが適当なタイミングで一次電流を急速に遮断します。行き場のなくなった高圧は二次コイルのスパークプラグに火花放電を起こします。実際はコイルに共振用コンデンサが接続されているため、動作はもう少し複雑ですが、コイルの性質を巧みに利用したシステムと言えるでしょう。

余談ですが、イグニッションコイルもコイルである以上、一次コイルに電圧を加えた瞬間から電流は時間と共に増加します。二次側に十分な高圧を作ためには、インダクタンスがある程度大きい方が有利になります。しかしインダクタンスを大きくすると一次コイルの電流が増加するのに時間がかかります。要するに、エンジンを高速回転させると一次コイルの電流供給が間に合わなくなり、スパークが弱くなってしまいます。特に気筒数の多いエンジンを一個のイグニションコイルでまかなう場合は厳しくなります。高速回転を必要とするスポーツカー等は各気筒毎にイグニションコイルを備える構造をもちます。