■特性インピーダンス

同軸ケーブルには75Ωや50Ω、ビデオケーブルには75Ωのインピーダンスがある事は本やこぼれ話に聞く事があります。このΩ数を通常のインピーダンスと区別してそのケーブルの特性インピーダンスと呼びます。
この特性インピーダンスですが、正体を解説した書物は理工系の数学的でかなり難解です。ここでは考え方だけ解説します。

ここでクイズを一つ、次の様な回路と言うには大げさですが、スケールだけ大きな配線があるとします。電線の抵抗は0と考えてください(超伝導の電線とでも思ってください)

1光年は光の速度で到達するのに1年かかる距離の事で、天文では良く使用する単位です。電気の伝搬速度もほぼ光と同じ程度の速度になります(導体を通過する速度はそれより遅くなるが、煩雑になるので省略) 上の回路では電球に電気が行くまで1年かかります。

1光年彼方の電球を点灯させるために、今スイッチが閉じられました。一年後には電球が点灯するはずです。
ここでちょっとしたトラブルが発生しました。誰かが電球を外してしまったのです。
1年後はどうなるのでしょう。それより、先の分からない回路でスイッチを閉じた場合どの様な事が起こるのでしょうか。

この様な場合は常識的に次の3つの答えが考えられます。

正解は3です。1とした場合は一年たたないとスイッチの場所から電球の有無は不明なので、たとえ正常に電球があっても電気が行かないため点灯しない事になり不条理です。2にならないのは少々説明がやっかいなので省略。

さてここで3ですが、いい加減に流れるのでは無く、電線の太さや間隔、絶縁体の誘電率で決まる値になります。これは純粋な抵抗と同じ事が長いケーブルで起こると考えられます。この抵抗値をケーブルの特性インイーダンスと呼びます。75Ωの同軸ケーブルが無限の長さ分あると、同軸ケーブルの心線と網線間の抵抗を測ると、理論上は75Ωの抵抗と同じになります。

ここで先の一年かけて流れた電気は外された電球の所でどうなるのでしょうか。これは行き先がないので、そのまま跳ね返ってきます。さらに一年かけて元のスイッチまで帰ってくる事になります。この行き先がなく跳ね返る状態をケーブルの終端反射と呼びます。戻ってきた電気がスイッチ側で吸収されない場合はまた反射が起こって一年かけて電球の方向に進む事になります。もしケーブルに損失が無ければ永久に電気が2年周期でケーブルを往復する事になります。

ところで75Ωのケーブルは端から見ると75Ωの抵抗と同じと言いました。別に端で無くても、適当な箇所で切断してしてそこから先の抵抗を測るとやはり75Ωになります。逆に切った先のケーブルの代わりに75Ω抵抗を接続しても端から見た場合、抵抗があるのか、無限にケーブルが続くのか区別できない事になります。これをインピーダンスマッチングと呼びます。マッチングのとれたケーブルにやってきた信号(電気)は終端反射を起こすことなく、全て抵抗に渡されます。

ここからは現実の話です。一年も伝送にかかる電線は現実にはありませんが、短い電線でも同じ事が起こります。今度は1GHzのシステムバスの話です。DOS/V世界も100MHzバスは当たり前で200MHzのバスも検討されている様です。ここでは飛躍して1GHz(1000MHz)のバスを考えます。サイクルタイムは1nS(ナノセコンド)です。1nS間に電気が進む速度は速くても30センチくらいになります。ここに巨大マザーボードがあってパターンが40センチあったとします。このマザーボードの端で起こった電気信号の変化が反対の端に到達する頃には、先の信号は別な状態に変化している事になります。これはスケールが小さくなっただけで一光年の長さの電線と同じ理屈が成り立ちます。もしインピーダンスマッチングが取れていない場合は跳ね返ってきた信号と新たな信号がごちゃごちゃに混ざってエラーだらけのバスになってしまいそうです。

これは1GHzの話ですが66MHzのバスでも終端反射は当然起こります。40センチのパターンを電気が往復する時間は3nS程度になります。66MHzのサイクタイムは約16nSですから信号が終端反射を繰り返す事になっても、5往復する時間があります。この間に反射信号が減衰して、本来のレベルに落ち着く事ができます。当然終端反射は少ない程良いので、マザーボードではインピーダンスマッチングが設計時に考慮されています。